太沢 ところで先生はアメリカでワインを勉強なさったし、最初に書いた本がカリフォルニアについてでしたから、ワイン専門家の間でもニューワールドは田辺先生の分野と思われていますよね。南アフリカは勿論、オーストラリア、チリ、アルゼンチンと古くから見て回っていらっしゃるとのことですが、最近の南アフリカは以前と変わっていますか?
田辺
はじめて南アフリカへ行ったのは2000年です。丁度1991年にアパルトヘイトが廃止され、1994年にネルソン・マンデラさんが大統領に就任し民主国家となって国が落ち着いてきた頃ですね。アパルトヘイト時代の南アフリカは国際社会から経済制裁を受けていたから貿易も限られていました。それが民主国家になって以降ワインの輸出量も急激に増え、数字からも伺えます。例えば1994年と2008年を比べると輸出量が8倍にも増えています。
この10数年で世界に認められるワインが一層造られるようになったことが少し歴史の話しをしますと、南アフリカでワインが造られるようになったのは今から350年以上も前の1659年のことです。
太沢 そんなに古いのですか?
田辺 喜望峰が発見され1652年にオランダの東インド会社が到来し、スパイスやシルクを求めてアジアに向かったヨーロッパ人の航路の寄港地としてケープタウンの街が開発され発展してきたのが南アフリカの最初ですが、その直後から寄港するヨーロッパ人の為にワインが造られるようになったのが、かの地でのワイン造りの始まりなんです。 その辺がアメリカやオーストラリアとのスタートの違いが感じられるところでしょう。その後もフランスで19世紀後半にフィロキセラ(注)が蔓延した頃には、ヨーロッパで不足した分を南アフリカでワインを造り輸出されるようになったの。
太沢 だから南アフリカでは昔からヨーロッパ人向けのエレガントでフィネスのあるワインが造られたんですね。
田辺
例えばカリフォルニアでは元々、ヨーロッパ向けではなく自分達のためのワインを造っていたのね。
当時ゴールドラッシュでヨーロッパ人がたくさん移住してきて、労働をする彼らの胃袋を満たし疲れを取るためのワインが必要だったので、アルコール分の高いワインがもてはやされたのね。勿論今では全く事情は違いますよ。
太沢 それとは逆に南アフリカはヨーロッパ向けの質の高いワインが当初から求められたのですね。
田辺
例えば、コンスタンシアで造られている甘口のワインは18世紀後半ナポレオンが好んで飲まれていた話などは有名です。
最近では色の濃い、しっかりとしたタイプのワインが増えてきていますが、南アフリカのワインは今もエレガントなフィネスを感じられるなめらかなワインが多く造られていますね。もうひとつ歴史の話ですが、宗教戦争で負けたフランスのユグノー教徒が南アフリカに住みつき、ロワール地方からシュナン・ブラン種を伝えたので、南アフリカを代表する品種となったのです。